風が強い。風の音に混ざって、遠くからお囃子(おはやし)の音が聞こえてくる。ちょっと遅れた桜祭りでもやっているのだろうか。まだ親しみのない町のお祭りを覗いてみようか。コートを着て外に出る。
少し歩き回ってみてわかったこと、音のありかを探すのは、結構難しいということ。どうやら公民館で練習をしている音のようだ。でもまだ自信はない。公民館から少し離れた住宅街で、音が一番大きく聞こえるからだ。
横を、ご年配の方がカートを押してゆっくり通り過ぎる。こんにちは、と声をかけて聞いてみる。「お囃子の音が聞こえるのですが、練習ですか?」「うん、このへんの人じゃないの?」「最近引っ越してきました」「あらそうなの。今月にお祭りがあるのよ」と日付を教えてくれた。満足して帰る。
私の家の周りには、自分の庭をどんと構えた一軒家が多い。それぞれの庭では、椿や松などの深い緑が曇り空の下で揺れながら、冷たい苔に影を落としている。こういう場所は、小さな鳥が好んで集まる。近くに住んでいるスズメは、毎朝6:00になる前に活動を始め、地面を漁って腹ごしらえをする。本人は隠れているつもりでも、弱い枝にとまって木を傾けてみては、動くたびに短くチュと鳴くので、すぐにわかる。スズメはほとんど毎日規則的に一日を始めるようなので、私はその声を頼って目覚まし代わりにしている。ただし雨の日は注意で、活動が始まらないときもある。
今の環境と暮らしを、どんどん好きになるばかりだなあと感じる。会社からもらったカレンダーで一年の予定が目に見えて、大切にしたい人もたくさんできて、自分の時間も結構あって、今はうれしい。
最近、カミュの「異邦人」を読んでいて、その色彩の感覚に圧倒されているので、いつもと違う文章になりました。
