不思議な体験の話をします。
私は学生の頃、毎朝7:30頃に家を出て、父の運転する車に乗る生活をしていました。竹藪の覆いかぶさるアスファルトの広い田舎道を少し行くと、郵便局や個人の電気屋があるようなちょっとした街中に入ります。道路の両隣に戸建てが並び、電柱が道路に少しはみ出しているような狭い道です。
その通りにある信号で赤になりました。父は車を停止しました。すると、ある一羽の鳥がどこからか降ってきて、車のサイドミラーにカチカチと留まりました。私が座る、助手席側のサイドミラーです。足が長くて身軽そうな、白と黒のきれいな鳥です。目が合っているように思いますが、相手は特に怖がる様子もありません。父も、アラと見つめます。いったい何をしに来たのかと見つめていると、やがて信号は青に変わり、車が動き出します。
その鳥は、車が動くなり身をひるがえして、加速しつつあるサイドミラーに向かって飛び始めました。まるで車が動き出すことを承知しているように。そして、サイドミラーと助手席の窓の間の、狭い空間の中で、しばし車と並行して飛び続けました。まるで鏡の中の自分の姿を確認するように…。
その日だけではありません。次の日もその次の日も、毎朝同じように、その鳥はサイドミラーの中の鳥を追い続けました。必ず、信号で一番前に停止する車のサイドミラーにいました。信号が赤のうちはスンと澄ましていた鳥が、青になった途端に急変して、必死の形相で鏡の自分に猛進するので、かわいいというよりは、ちょっと変な鳥でした。ある年の春の、ある数週間ほどの出来事でした。
毎日のことだったので、写真も撮りました。ハクセキレイという鳥だそうです。






おしまい。
