現在見つかっている最古の人類は、約700万年前のサヘラントプス・チャデンシスである。この名前は、「サヘルのチャドに由来する人間」という意味で、アフリカ・サヘル地域のチャド共和国で見つかった化石のため、このように名付けられた。出土地の言語で、「トゥーマイ(生命の希望)」とも呼ばれている。
トゥーマイは、身体の化石は見つかっていないが、完全に近い状態の頭蓋骨が見つかっている。この頭蓋骨を見てみると、脳の大きさが約350ccと推定され、これはチンパンジーと同程度である。また眼窩上隆起(目の上の張り出した部分)も発達していることも、チンパンジーの特徴に似ている。しかしトゥーマイの頭蓋骨にはチンパンジーとは異なっている部分が見つけられた。それは、脊髄が通る大後頭孔が下方にあること、そして犬歯が小さいことである。とくに大後頭孔の位置が下にあるということは、トゥーマイが直立二足歩行をしていた可能性が高いことを物語っている。このことから、トゥーマイはチンパンジー類から分かれた直後の人類であると考えられている。
トゥーマイの化石と一緒に、様々な動物の化石も出土した。森林にすむサルやヘビ、ウシの他に、魚やカワウソなどの化石が見つかった。これが意味するところは、トゥーマイが住んでいた場所が、森林よりは木が少なく、ところどころに湖や草原があったような場所であるということである。完全な草原では肉食獣に見つかって食べられてしまう弱い人類も、多少の木があれば、木に登ってやり過ごすという選択肢をとることができただろう。直立二足歩行は、木のある環境で初めてデメリットを打ち消すことができるのである。
今から約440万年前には、アルディピテクス・ラミダスが生きていた。サヘラントロプス・チャデンシスの誕生から約260万年が経過しているが、脳の大きさはそれほど変わらずチンパンジーと同程度であり、他にも原始的な特徴が残っている。初期人類としては比較的多くの化石が発見され、全身に近い骨格も見つかっている。このアルディピテクス・ラミダスの化石群は、直立二足歩行の起源を語ってくれるだろう。