約700万年前、チンパンジー類から分岐して、人類の進化の歩みが始まった。人類とチンパンジー類を隔てた特徴のひとつは、直立二足歩行である。
直立二足歩行は、ペンギンやカンガルーが行なうような単なる二足歩行とは異なる。胴体から頭までを直立させて歩くような動物は、人間以外には見られない。
このような直立二足歩行の証拠は、頭蓋骨や骨盤、大腿骨など出土した骨を観察することから得られる。例えば頭蓋骨の大後頭孔の位置を見てみよう。大後頭孔は、頭蓋骨が脊椎と繋がる穴で、そこを脊髄という神経が通る。この大後頭孔の位置によって、直立二足歩行をしていたか四足歩行をしていたかがわかるのである。

私を見上げる飼い犬のダックスフンドを見ていると、「ずっと上を見ていて肩が凝らないのかな」と考えることがある。私だったら、四つん這いでずっと上を見続けることはできない。体育祭の組体操が辛かった理由がそれだ。そう思って時々、犬の肩と思われる場所を揉むことがあるが、特に不要という顔を向けられる。犬にとっては、辛くないことなのだ。それは筋力の問題などではなく、骨格の問題なのである。私と犬の、そして人類とチンパンジーの大後頭孔の位置に違いがあるのである。

私たち人類は四つん這いになるとき、顔を地面のほうに向かせているのが一番楽である。これは、大後頭孔が頭蓋骨のほぼ中央にあるからだ。無理やり前を向こうとするとき、余計な筋肉を使うから、肩が凝るのである。一方、ダックスフンドやチンパンジーの大後頭孔は、頭蓋骨の後ろのほうにある。これなら肩凝りに悩まされることもなく、四つん這いの状態で前を向くことができる。こういった頭蓋骨を持つ動物は、四足歩行を基本としているとわかる。
なぜ、みんな直立二足歩行をしないのだろうか。なぜ、私たち人類だけなのだろうか。
他の動物たちが移動方法として直立二足歩行を選択しなかったことには理由がある。直立二足歩行には、いくつかの欠点があるのだ。まず、立っているから目立つ。草原なんかを歩いていたら、肉食獣に簡単に見つかってしまう。そして走るのが遅い。人類が走って獣から逃げることは不可能だ。すぐに捕まってしまう。草原で肉食獣と勝負をしたら、人類に勝ち目はない。人類は、とても弱い生き物なのだ。

その弱い生き物である人類は、どうやって生き延びてきて、進化してきたのだろうか。人類の初期の化石を観察してみると、その歩みをたどることができる。
