アウストラロピテクスからは新たに2つの系統が進化した。それは、華奢型猿人と頑丈型猿人である。
これまでに見てきたアウストラロピテクス・アナメンシスやアウストラロピテクス・アファレンシスは華奢型猿人に分類される。一方の頑丈型猿人は、エチオピアの約270万年前の地層から見つかったアウストラロピテクス・エチオピクスから始まり、アウストラロピテクス・ボイセイやアウストラロピテクス・ロブストゥスが進化したと考えられている。この頑丈型猿人3種を区別するために、アウストラロピテクス族でなくパラントロプス族と呼ぶことにする。

パラントロプス・ボイセイは約200万年前に東アフリカに存在した頑丈型猿人である。身長は130~140cmくらいで、華奢型に分類されるルーシーの110cmより少し大きいくらいである。現代人からしてみると子供の背丈だ。彼らのどこが頑丈なのか?それは現代人の骨と比較してみると明瞭にわかる。

パラントロプス・ボイセイの頃にも、脳の容積は現代人と比較してもまだ小さい。しかしそれよりも顕著な特徴は、頭蓋骨の前方から後方にかけて深く現れている矢状稜(しじょうりょう)である。ウルトラマンみたいだ。矢状稜は、噛む力を生む側頭筋を支える骨で、噛む力の強いゴリラなどに見られる特徴である。私たちに矢状稜はないけれど、側頭筋はあるので、試しに頭に手を当ててみて歯を噛みしめてみると、そこが動いているのがわかる。


さらに、パラントロプス・ボイセイの頭蓋骨を上から見てみると、頬骨弓(きょうこつきゅう)の幅も大きい。頬骨が出っ張っているということは、そこにつく咬筋も大きかっただろう。咬筋は、あごのエラの部分に手を当ててもぐもぐしてみると、そこが動いているのがわかる。

つぎに上顎の下面を比較してみよう。パラントロプス・ボイセイの顎が大きいのは一目瞭然である。臼歯は縦に短く幅広く、中切歯・側切歯・犬歯を含めた咬合面が平たくすり減っている。一方で、中切歯・側切歯・犬歯の大きさは現代人と比べてもそれほど変わらない大きさであるため、それほど活躍しなかったのだろう。彼らが持っていたのは、噛みちぎる力というよりは、噛み砕く・すりつぶす力だ。
これらの特徴から、パラントロプス・ボイセイは側頭筋や咬筋を支えるための構造が発達しており、モノを噛むことに特化した猿人であったと言うことができる。彼らは、乾燥化した大地のもとで、その強靭な顎を使って硬い豆や根をすりつぶして食べていたと考えられる。
さて、頑丈型猿人はアフリカの乾燥化という環境変化に対して、「硬いものをすりつぶして食べる」という選択をした。これとは逆に華奢型猿人は、「肉食獣が残した骨を食べる」という選択をし、顎や臼歯は小さくなっていった。正反対の選択をした両者であったが、頑丈型猿人はその後絶滅し、華奢型猿人は我々ホモ・サピエンスの祖先となった。
頑丈型猿人が絶滅した理由としては、乾燥した大地において、豆や根を餌とする猿人以外の消費者(ヒヒやチンパンジー)に、食物を食べつくされてしまったことなどが考えられる。一方で、肉食動物が食べ残していった骨は乾燥した大地でも比較的見つけやすく、競争相手も少なかったため、骨食を選んだ華奢型人類が生き残ることができたと考えられる。
骨を食べるとはどういうことだろうか。次の投稿ではその方法を探る。