Kuroi Diary

人のために絵を描くことで、救われている自分に気づく。絵を描くことが社会貢献や自己実現の手段の一つになるなんて、想像もしていなかった。

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絵を描くことは、小さい頃から好きで続けてきたことの一つだ。授業中にノートの空いた箇所を見つけては人間の身体をひたすらに描いたり、夏休みの自由研究と題して飼い犬を色鉛筆で描いたり、塾(KUMON)の数学の解答をできるだけ簡潔に書いて、余白の多いその紙を後で落書きするために取って置いたり。絵を描かない日は無かった。

私にとって絵を描くことは自分1人で完結する趣味に過ぎなかった。自分が描きたいものを描ければそれで満足だ。誰かと一緒にするものでも、目標に向けて練習するものでも、評価されるためにするものでもない。学校のイラストクラブには見向きもせず、スポーツクラブを選んだ。教室で静かに絵を描いている自分よりも、友達と身体を動かしている自分の方が、期待されている姿であったし、内面的・外面的な自己認識に合っている。イベントなどで色紙や挿絵を描いてほしいと絵を依頼されることはよくあった。しかし私は絶対に自分の名前を添えなかった。その方がかっこいい。今考えると、自己認識とのズレから、絵を描く自分をあまり知られたくなかったのだと思う。

あるとき、校外学習のしおりの表紙を頼まれた。太陽と、ONE PIECEのウソップに似せたじょうろと、芽が出たばかりの双葉を描いた。学年集会が行われ、校外学習の説明をしていた普段関わりのない先生が、突然「この表紙を描いたのは誰だ」と言って、私を1人立たせた。「俺はこの絵はすごいと思った。この太陽みたいに君たちのご両親や先生たちが見守る中で、このじょうろのように君たちが校外学習で学んだことでたくさん水をやって、葉っぱを、君たち自身を育てるんだ。そういう意味で描いたんだろう？」私は頷いた。座らされた。すごく恥ずかしかった。こんなことで立たせないで、みんなすごいって思ってるわけない！

自分の絵を一番過小評価していたのは、私自身だ。当時の私はもちろん、ごく最近まで、私は「絵が描けること」自体を過小評価していた。例えば得意なことは何ですかと聞かれたときに、開口一番「絵を描くことです」と答えた場合、「ああ内向的で運動とか苦手なのね」と思われないだろうかと考えてしまう。いや運動も好きなんですと言いたくなる。この思考は、私自身が「絵が得意な人は内向的な性格である」という偏見を持っていることに由来する。それよりは、「ランニングとかします」の方が、相手からの反応も良いし、会話が続く。経験的に分かっていることだ。自己イメージを守るため、長い間私の中で「絵を描くこと」は、たくさんある趣味の中の一つに留まっていた。

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最近、急に演劇がやりたいと思って、富山を拠点とする劇団の公演を観に行った。富山出身の俳優・西村まさ彦さんが主宰する劇団だ。この人たちと演劇がしたい。履歴書を送る。学生時代に作成した演劇のポスターやロゴも、ポートフォリオとして送る。すぐに返信が来て、東京公演が迫っているから、早速フライヤーを作ってほしいと頼まれる。1度しか見たことのない演劇を思い出しながら、一生懸命に作った。自分が描きたいものを描いたというよりは、劇団のために、喜んでもらいたいと思いながら絵を描いた。たくさんのお客さんが、フライヤーに描かれた私のイラストをじっくりと見ている。その様子を客席の後ろから見て、「私はこれからもこうやって生きていきたい」と思った。

丁度、どうすれば社会に貢献できるか、その手段を考えているところだった。例えば、私は研究が得意だから、自然科学の研究を続けることで技術の進歩に貢献できる。勉強が得意だから、塾を始めることで社会的な子育てができる。でもそうか、絵を描くことも、社会貢献になるのかもしれない。絵の持つ力を、もう少し信じてみてもいいのかもしれない。

そう考えてみると、絵を描くことで人に喜んでもらえた経験がたくさんあることに気づく。大学構内で声をかけてくれて、「ストーリーを描くから一緒にマンガを作らないか」と誘ってくれたフランス出身の学生。論文に載せるためにチンパンジーの歯のスケッチを描いてほしいと言ってくれた人類学の教授。高校の同級生というつながりで、イラストを頼んでくれたs-o-a。柔道の教室に飾りたいと書道を依頼してくれたスウェーデンの武道家。そして、これらの経験に救われている自分。

このまま進んでもいいのかもしれない。

そのフライヤーの出来は、自分が表現したかったものからは程遠い。もっとうまくなりたい。もっといろいろな構図を描けるようになりたい。もっといろいろな人と関わって、一緒に考えて、自分の想像やその人の想像を超える絵に出会いたい。私が持つ力を最大限に発揮して、私ができる形で社会貢献したい。生まれて初めて、「人のために絵を描きたい」と思った。生きる意味を与えてくれる周りの人に、日々感謝。